ストーリー
題名にあるように、この『幕末』は短編集です。司馬遼太郎は長編も多いですが、短編もけっこう出してるんですよね。十二編入ってて、具体的には「桜田門外の変」、「奇妙なり八郎」、「花屋町の襲撃」、「猿ヶ辻の血闘」、「冷泉斬り」、「祇園囃子」、「土佐の夜雨」、「逃げの小五郎」、「死んでも死なぬ」、「彰義隊胸算用」、「浪華城焼打」、「最後の攘夷志士」が収録されています。ちなみに私のオススメは、清河八郎という攘夷志士が主人公の「奇妙なり八郎」です。感想
司馬遼太郎は幕末ものと戦国ものが多いわけなんですが、これは書名が『幕末』であることからもわかるように幕末ものです。桂小五郎(木戸孝允といったほうがわかりやすいでしょうか?)といった有名どころから、大庭恭平という無名の人物まで描かれていて、幕末という時代の雰囲気というか気分といったものがよくわかります。ところで、私がこの短編集で一番好きなのは、先に述べたように清河八郎という人物を扱ってる「奇妙なり八郎」です。幕末は見方によっては彼によってあのような動乱の時代になったということもできます。九州などから志士を上洛させたのも清河八郎ですし、新撰組が結成されるきっかけを作った(つまり、彼が上洛させた志士たちを取り締まらせるきっかけを作った)のも清河八郎だったわけで、極端に言えば幕末の京都に混乱を持ち込んだのは全て清河八郎ということもできるわけです。それが結果としてよいことだったかは別として、すごい人物ですよね。
そんな清河八郎の人生は人をだますことの連続みたいな感があるのですが、彼の最期は人に裏切られることによって(しかもとても単純な罠にはめられて)突如訪れます。そのシーンを描いたあとに述べられる司馬遼太郎の感想が、清河八郎という人物を(ひては策士という型の人間を)よく表しています。抜粋すると、
清河は素朴すぎるほどのわなにかかったことになる。策士だっただけにかえって油断した。
おそらく彼自身が不審だったろう。ひとが自分をだますとは、夢にも思っていなかったにちがいない。
です。たくさんの人を騙して、幕末の混乱を一手に作り上げたと言っても過言ではない清河八郎が、騙されて死ぬというのは皮肉ですよね。
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